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2-15 琢磨と明日香 1

last update Terakhir Diperbarui: 2025-03-09 11:26:34
モルディブ時間の午後8時—―

翔のスマホが鳴っている。

部屋にいた明日香が気付き、手に取った。

「誰かしら……あら?」

着信相手は琢磨からだ。早速明日香は電話に出ることにした。

「はい、もしもし」

『もしもし…って明日香ちゃんか?!』

「ええそうよ、何? 仕事の話かしら?」

明日香はベッドの上でワインを手に取ると優雅に飲んだ。

『いや……別にそういうわけじゃないが……。翔はどうしたんだ?』

「シャワーを浴びに行ってるわ」

『そうか。という事は食事は済んだのか?』

「ええ、そうよ。今日はモルディブでも有名なレストランに行ってきたのよ。やっぱりこの国の魚料理はおいしいわね」

明日香はその時の事を思い出し、笑みを浮かべる。

『ああ、そうかい。それは良かったな』

電話越しに琢磨のイラつきを感じとる明日香。

「あら、何よ。随分イラついているじゃない? さては私達だけモルディブで羽を伸ばして自分だけは日本で仕事をしているから、八つ当たりでもしてるのかしら? なら貴方も来月休暇を取ってここに来ればいいじゃない。海は綺麗だし最高よ?」

そしてもう一杯、ワインを飲み干す。

『おい……明日香ちゃん。もしかして酒でも飲みながら話してるのか?』

「あら、良く分かったわね?」

『当り前だろう? さっきから会話の合間合間に何か飲み干す音が聞こえてくるんだから……おい、電話中に酒はやめろよ。気が散る』

「ほんとに琢磨って昔から遠慮なしにずけずけと言いたい事言ってくれるわね? この私にそんな口聞くの貴方くらいよ?」

『おお、そうかい。それは良かったな? 明日香ちゃんに物申せる人物がいてさ』

「……切るわよ? 何よ。文句を言う為にかけて来た訳?」

明日香はムッとして通話を切りかけ……。

『おい、待てよ! おかしいだろう? そもそも俺は明日香ちゃんの携帯じゃ無くて、翔の携帯に電話してるんだぞ? 勝手に人の電話に出て、挙句に切ろうとするなんて滅茶苦茶な話だろ?』

「……それじゃ、何の為に電話してきたのよ」

すると、はああ~と電話越しに琢磨の溜息をつく声が聞こえてきた。

『ああ……もういいや、電話の相手が明日香ちゃんでも』

「何よ? 私でもいいって?」

『いいか? 俺は朱莉さんの事で電話をかけてきたんだ』

朱莉と聞いて、明日香の眉がピクリと動く。

「な、何よ。私はちゃんとやるべきことはやったわよ? 彼女の
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     翔がPCに向かっていると、オフィスのドアが開いて琢磨が部屋へと入って来た。「……戻ったぞ……」琢磨は疲れ切った様子で、ドサリと自分の椅子に座った。「どうした? 随分疲れ切っているように見えるぞ?」声をかける翔。「あ、ああ……。まあな、ちょっと色々あって……今、少し話せるか?」「大丈夫だ。何があったんだ?」「お前と明日香ちゃんの部屋へ行ってきたんだ。お前の私物を少し朱莉さんの部屋へ移動させる為にな。「何だって?」翔は眉をしかめた。「どうしてそんな勝手な事をするんだ……とでも言いたいのか?」「いや、俺のことよりも……明日香の様子はどうだった?」「そりゃあヒステリーを起こして大変だったよ。何だか以前より酷くなっていないか? 精神安定剤飲んでるんだろう?」「いや……実は今は飲んでいないんだ」「なんでだ? 医者からやめていいと言われたのか?」「言われていない」その言葉に琢磨は肩をすくめる。おいおい…。もう一度医者に行くように言えよ。あれじゃあお前だってたまったもんじゃないだろう? 家に帰ったって、あんなヒステリックな明日香ちゃんと一緒だと気が休まらないんじゃないか?」「俺は……これは俺が受けるべき罰だと思ってる」しんみりと答える翔。「はあ? 何言ってるんだよ? それに今まで聞かずにいたけど……お前、明日香ちゃんからDV受けているだろう?」「!」翔の肩がピクリと動く。「やっぱりな……。全く、鳴海グループの御曹司が恋人からDVを受けているなんて話……笑えないからな?」「俺のこと……情けない男だと思っているだろう?」翔は自嘲気味に笑った。「翔……。悪いことは言わない。一度明日香ちゃんを入院させたらどうだ? あれはもう酷いなんてものじゃない」「そんなことをして、世間にもしばれたらどうするんだ!? マスコミにかぎつけられて最悪、俺と明日香の関係までばれたらこの会社はどうなる!?」「都心ではない……どこか地方の療養施設に暫く明日香ちゃんを預けるんだよ! な? 悪いことは言わない。何も何カ月も入院させるわけじゃない。せめて長くても半年……短くても3カ月……。その間に明日香ちゃんは治療に専念する。お前はゆっくり休める。……悪い話じゃないと思うぞ?」「明日香がそんな話、納得すると思うのか?」「ああ、納得なんか絶対にするはずはないだ

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   3-5 用意周到 2

    朱莉に案内されたのはウォークインクローゼットであった。「どうぞ、見てください」琢磨にワードローブにしまってある服を見せた。スーツが20着ほど吊るされ、収納ケースにはきちんと春物や夏物に仕分けされた服が畳まれてしまってある。下着類も丁寧に畳まれて収納されていた。「凄いですね。そこまできちんと考えられていたなんて」琢磨は感嘆の声を漏らすと同時に、ある事に気付いた。「あの……ご自身の服は購入されていますよね? 今見せていただいた場所は全て副社長用の服しかない様ですね。こちらに置かれている全ての収納ケースを拝見しましたが、奥様のはございませんね? 別の場所におかれているのですか?」「はい。ベッドルームのクローゼットにしまってあります」そこで琢磨は引っ越し準備のことを思い出していた。朱莉がこの部屋に越して来る為に、琢磨は何度もこの部屋を訪れていた。必要な家電や家具を購入し、それらを配置する為に、連日通い詰めていたのだからよく覚えている。(まてよ……。確かあのベッドルームには確かにクローゼットはあるが、大した大きさじゃなかったよな?)琢磨はそのことを思い出し、朱莉に尋ねた。「あの……奥様の衣類は全て、そのクローゼットで収まっていると言うことですか?」「はい。そうですが?」「副社長からはカードを預かっておりますよね? それで自由に買い物をするようにと言われていたと思いますが?」すると朱莉は顔を赤らめる。「確かにそう言われましたが、翔さんのカードをお借りして買い物をするのは何となく気が引けて……それで自分の分は月々の手当から買っていました」琢磨はそれを聞くと胸がズキリと痛んだ。(そこまで彼女に気を遣わせてしまっていたなんて……!)「それは副社長が奥様に使っていただきたいと思い、渡されたカードです。書類上の結婚とは言え、奥様は正式な副社長の妻なのです。なのでどうか遠慮されずにそちらのカードで必要な物は全て購入されてください。そして月々振り込まれるお金は……これは私個人の意見ではありますが、将来の為に貯金されることをお勧めします」「九条さん……」「申し訳ございません、余計なことを話してしまいました。どうやら私が持ってきた服は必要無かったようですね。このまま持ち帰らせていただきます。それともう一つ確認を取らせていただきたいのですが、食器類なども全て

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   3-4 用意周到 1

     部屋でPCを前に通信教育の勉強をしていた朱莉のスマホに電話がかかってきた。着信相手は琢磨からだったのだ。「え……? 九条さん? すぐに出なくちゃ」朱莉はスマホをタップすると電話に出た。「はい、もしもし」『ご無沙汰しています、九条です。この間は写真の件で無理を言ってしまい、大変申し訳ございませんでした』「いえ、別にそれ位はどうということはありませんから。あ、もしかしてその件でわざわざお電話を?」『いえ、違います。実は大変急な話で申し訳ございませんが、今ご自宅の前におります。もしご都合がよろしければ少々伺ってもよろしいでしょうか? 奥様に大切なお話があります」(え? もう家の前に……? どうしたのかな?)いつも用意周到な彼にしては珍しい事だと朱莉は思った。だが……。「はい、大丈夫です。今玄関を開けますね」玄関へ向かい、念のためにドアアイで確認すると、大きな紙袋を手にした琢磨の姿があった。(え? あの荷物何だろう……?)朱莉は急いでドアを開けた。「こんにちは、お会いするのはお久しぶりですね。突然訪問してしまい、申し訳ございません」琢磨は深々と朱莉に頭を下げた。「い、いえ……。大体は部屋におりますので、どうぞ気になさらないで下さい。それで、今日はどのようなご用件でしょうか?」「ええ。じつは会長が近々日本に一時帰国されるそうです」「え? 会長って……翔さんの御爺様ですよね?」「はい、そうです。それで一度、副社長に自宅を訪問したいと伝えてきたそうなんです」「! そ、そうですか……」ああ、ついにこの日がやって来てしまったのかと朱莉は思った。いずれは翔の親族が客として訪れるだろうと言うことは覚悟していたが、いざそれが現実化されるとなると、朱莉は不安な気持ちで一杯になった。思わず俯く朱莉に琢磨は謝ってきた。「申し訳ございません」「え?」「いずれ会長がこちらにお越しになるのは分かり切っていたことだったのに……問題を先送りしておりました」「問題……?」「はい。恐らく会長はお2人の新居での生活の様子を知りたいと思っているはずです。しかし実際にはお2人は一緒に住んだことも、それどころか副社長はこのお部屋にすら入ったこともありませんよね?」「は、はい。その通りです……。あの、それは私が翔さんにあまり良く思われていないから……だと思います

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   3-3 明日香と琢磨の口論 2

    ――ピンポーン インターホンを押すと、ドアが開けられて不機嫌そうな明日香が顔を覗かせた。「……随分早かったのね。琢磨」明日香は露骨に嫌そうな視線を琢磨に向けるが、それを気にも留めずに琢磨は言った。「ああ、急いでここへ向かったからな。それじゃ中へ入らせて貰うよ」「ちょ、ちょっと……!」明日香の非難する声も、ものともせずに琢磨は部屋に上がり込むと、翔の衣服やらスーツを片っ端からクローゼットから出していく。「な……何するのよ! 琢磨!」明日香は琢磨が翔の背広に手をかけた時、片側の袖を掴んで引っ張りながら抗議した。「翔の服を何処へ持って行くつもりよ!」「それを俺に聞くのか? 明日香ちゃん。翔から聞いたぞ? 昨夜会長から連絡が入ったそうだな? 近々日本に一時的に帰国するそうじゃないか。それで朱莉さんと翔の新婚生活の様子を見たいって言言われたんだろう? 恐らく朱莉さんは翔の日用生活品は用意してるだろうが流石に服までは用意していないはずだ。だからこの部屋から翔の服を朱莉さんの部屋に移動させるのさ」琢磨はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。「な……何ですって……! 彼女の部屋に翔の服をですって? 嫌よ! そんな事させないわ! 翔の服なら彼女が適当に買って用意すればいいでしょう?」「随分無茶な事を言うんだな? 女性が1人だけで男性用の服やら下着をほんの数日で揃えきれると思ってるのか? 何せ、お前達兄妹が着ている服は全てブランド品ばかりだしな?」「ちょっと! 私と翔を兄妹って言わないでよ!」明日香はヒステリックに叫んだ。「何がいけない? 世間的には明日香ちゃんと翔は血の繋がりは無いが、戸籍の上では立派な兄妹だ。会長だってそれを分ってるからお前達の結婚を認めていないんだろう? いいか? 今から俺がやろうとしていることに文句を言ったり、この件で朱莉さんに言いがかりを少しでもつける様なら、俺は全て会長に報告するからな? 2人の結婚が偽装だと言うことも、偽造結婚に関する契約書だって全てな。あれを作ったのはこの俺だ。それらを全て会長に証拠として提出する。そんなことになれば明日香ちゃんも翔も終わりだぞ? きっとそれらが知れたら会長はお前達を許さない。翔に会社を継がせるって話も消えて無くなるかもしれないぞ?」(尤も俺自身だって終わりには違いないだろうけどな……)琢磨は

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   3-3 明日香と琢磨の口論 1

     朱莉から自撮り写真の画像を受け取り、写真を加工編集して貰った翔は写真が出来上がったその日のうちに、祖父にメールに添付して送った。祖父からはモルディブのハネムーンを楽しめたようで良かったなと後日メールが入ってきたので、翔は一安心していたのだが……。****「おはよう……って何だよ! 朝っぱらから辛気臭い顔して……」オフィスに入って来た琢磨は難しい顔つきでデスクに座っている翔を見ると驚いた。それ程翔は髪が乱れ、酷い顔色をしていたのである。「あ、ああ……おはよう、琢磨」翔はぼ~ッとしていたが、琢磨に気付くと、顔を上げた。「おいおい……しっかりしてくれよ。今日は取引先と商談があるんだろう? あんまり聞きたくは無いが、一応聞いておく。……昨夜、明日香ちゃんと何かやりあったな?」琢磨は背広を脱ぐと、椅子に掛けた。「まあな、多少は……。だが、問題はそこじゃないんだ」翔は溜息をついた。「何だよ、だったら早く言え。それで何があった。早いとこ今抱えている問題を解決しなければ、午後の大事な商談に影響が出てしまうだろう?」バンと机を叩く琢磨。「そうだな……言うよ。実は会長が1週間後……日本に一時的に帰国してくるんだ」「え? そうだったのか? 初耳だな。それは昨夜決まったことなのか?」「ああ。……そうだ」「ふ~ん……それで明日香ちゃんが荒れたわけか。明日香ちゃんは子供の頃から会長とは反りが合わないって言ってたものな」「いや。明日香が荒れていたのはそれだけが原因じゃないんだ……」「何だ? まだ何かあるのか?」「会長……祖父が俺と朱莉さんの新婚生活の様子を見たいから……新居に遊びに来ると言ってきたんだよ。ひょっとしたら、あのモルディブでの写真に何か違和感を感じたかもしれない……だからだろうか?」翔は両手を組んで、顎を乗せると考え込んでいる。「だから俺はお前が写真を画像加工に出すとき言ったんだ! 会長は勘のいいお方だ。下手な小細工をしても嘘はバレるぞって。何か怪しいと思われたんじゃないのか? でもな、翔。それはお前の自業自得だからな? 最初から明日香ちゃんが文句を言おうが何しようが、モルディブでちゃんと朱莉さんとの写真を撮っておかなかったお前の責任だ。明日香ちゃんの矢面から朱莉さんを守る為に、波風立てたくないって一度俺に言った事があるが……俺から言わせ

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   3-2 旅行の代償 2

    「ちょっと待てよ、翔! そもそも2人でモルディブへ行った証拠を会長に見せる為に行った旅行じゃ無かったのか? 何故お前と朱莉さんのツーショットが無いんだよ!」「明日香が……常に一緒だったから朱莉さんとの2人で映る写真を写す事が出来なかったんだ……」「朱莉さんにはお前と明日香ちゃんのツーショットの写真を何枚も撮らせて? 挙句には2人のキスシーン迄写させたんだろう? お前、一体何やってるんだよ!」琢磨は流石に我慢の限界で声を荒げてしまった。「ああ、そうだ。俺は本当に最低な男だ。明日香の御機嫌取りばかりして彼女を……朱莉さんを傷付けてしまった」「く……! ま、まあ過ぎてしまったことはもうどうしようもないが……。うん? 待てよ。もしかしてお前がさっき見ていたHPってまさか……!?」「ああ。朱莉さんの写真を借りて、そこの会社に画像の加工を依頼しようかと思ってるんだ。最短2日で仕上げてくれるそうなんだが……。それで琢磨から朱莉さんのモルディブで撮影した画像ファイルを送って貰えないか頼めないかと思ってって……琢磨、どうした?」琢磨が肩を震わせている事に気が付いた。「お、お前なあ! ふざけるな! いいかげんにしろよ! 自分が今何をやろうとしているか分かってるのか!? 会長に2人がモルディブ旅行へ行った証拠写真を見せなくてはならないので、朱莉さん。申し訳ありませんが、モルディブで撮影した朱莉さんの写真を拝借出来ないでしょうかって俺にその台詞を言わせる気かよ!」「そのまさかなんだ……」琢磨は怒りで顔が赤くなり、翔の顔色は青ざめている。何とも対照的な2人は暫く視線を交わしていたが……琢磨の方が折れた。「分かったよ……。俺から朱莉さんに頼んでみるが……いいか? 翔。後で必ず何らかの形で朱莉さんに詫びるんだぞ?」「ああ……分かってるよ」「全く、俺もどうかしてると思うよ。お前や明日香ちゃんのような奴と関わって……まるで悪魔の手先にでもなったかのような気分だよ。本当に朱莉さんが気の毒で堪らないよ……」琢磨の言葉に翔は項垂れた。「ああ……だから琢磨。お前には悪いが……朱莉さんに優しくしてあげてくれないか?」「翔、自分で何を言っているのか分かっているのか? 本来優しくするのは俺じゃなくてお前の仕事だろう? それを普通秘書の俺に言うか?」「悪いと思ってるよ。お前にも…

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